
不動産の仲介業を開業するにあたっては、宅地建物取引業免許の取得だけでなく、事務所の準備や営業保証金の用意など、さまざまな手続きや費用が必要となります。さらに、会社として運営していくためには法人設立費や人件費、広告宣伝費なども確保しなければなりません。
本記事では、不動産仲介業を開業する手順とともに、具体的にどの程度の資金が必要になるのかを解説します。開業時にかかる初期費用から、運営を軌道に乗せるまでに必要となる継続的なコストまで、幅広い観点を網羅しています。
不動産仲介業を開業する手順
不動産仲介業を始めるためには、法律で定められた手順を踏む必要があります。大まかには以下の流れになります。
- 事業計画を立てる
- 会社を設立(法人を作る場合)または個人事業を開業
- 宅地建物取引業免許を取得
- 営業保証金を供託、または保証協会に加入
- 事務所の準備(賃貸契約、内装工事、備品調達など)
- 開業届や税務署関連の手続き
- 人材採用、広告宣伝、営業開始
このステップのなかで、資金面で特に注意すべきポイントがあります。例えば法人設立のための登録免許税、宅地建物取引業免許の申請手数料、営業保証金や保証協会の入会金などは、確実に押さえておきたい初期費用です。
不動産仲介業の開業にかかる費用
不動産仲介業の開業では、法人設立費用から営業保証金、事務所の開設費用など、多岐にわたる出費が予想されます。以下では、主な項目ごとに確認していきます。
法人設立費用
法人として不動産仲介業を行う場合、会社設立のための費用が必要になります。登記関連の費用や定款の認証費用などが挙げられ、一般的に下記のようなコストがかかります。
- 定款認証費用
- 登録免許税(資本金の額によって変動)
- 司法書士や行政書士への報酬(専門家へ依頼する場合)
株式会社を設立する場合、登録免許税は原則として資本金の0.7%(最低15万円)です。合同会社の場合はさらに低く抑えられますが、企業形態によっては社会的信用度に差が出る可能性があります。
宅地建物取引業免許の申請手数料
不動産仲介業を始めるには、宅地建物取引業免許が欠かせません。免許には大きく分けて、国土交通大臣免許と都道府県知事免許の2種類があり、事業展開の地域範囲によって選ぶ免許が異なります。一般的な申請手数料の目安は以下のとおりです。
- 知事免許:30,000円~(書類の提出・都道府県での手数料)
- 大臣免許:90,000円~(書類の提出・国土交通省への申請手数料)
実際には、管轄の自治体や申請代理を依頼するかどうかで費用が上下することもあります。
営業保証金
宅地建物取引業法では、営業保証金の供託を義務付けています。これは取引の相手方が被った損害を補填するためのもので、万が一の際に顧客を保護する仕組みです。
- 主たる事務所:1,000万円
- 従たる事務所:500万円
主たる事務所1か所だけであれば1,000万円が必要になります。事務所を複数構える場合は追加分を足していく形です。
保証協会の入会金
営業保証金の負担を減らしたい場合、多くの不動産会社が保証協会に加入する方法を選びます。例えば「全国宅地建物取引業保証協会」や「不動産保証協会」などです。
- 入会金:約60万円程度(協会によって異なる)
- 式典費用・年会費など別途必要
保証協会に加盟することで、営業保証金の供託義務は免除されるかまたは大幅に軽減されます。その代わりに保証協会へ初期費用や年会費を支払う仕組みとなっています。
事務所設置費用
事務所を賃貸する場合、敷金や礼金、賃料などの初期費用が必要です。さらに、内装工事や備品の購入が求められます。
敷金・初期賃料
事務所を借りるときには、敷金や礼金、仲介手数料などが発生します。都心で立地のよい場所を選ぶと、高額になることも多いです。テナント契約の種類によっては保証会社の加入も必要になる場合があります。
内装工事費用
看板の設置やパーテーションの取り付け、OAフロアなど、事務所として使用するための内装工事費用が必要です。オフィスの広さや希望の内装レベルにより、数十万円~数百万円と大きく変動します。
備品費用
デスクや椅子、パソコン、電話機、複合機など、不動産仲介業に必要な備品を揃えるための費用です。中古やリースをうまく活用すると、初期投資を抑えられる場合があります。
その他諸経費
不動産仲介業を円滑に進めるための各種システムやソフトウェア、保険加入、ビジネスホンの設置などにかかるコストが該当します。
車両購入費用
物件の案内や顧客訪問のために車両が必要となるケースもあります。中古車であっても数十万円以上の費用がかかるほか、ガソリン代や駐車場代も継続的な出費となる点に注意が必要です。
そのほか必要になる費用・資金
開業時の初期費用のほかに、開業後の運営をスムーズに行うためにも一定の資金が必要です。
以下の項目を想定しておくことで、資金不足のリスクを抑えることができます。
委託費用
業務の一部を外部委託する場合の費用です。例えばデザイン制作やウェブサイト運用、広告作成などを外部の専門家に委託すると、人件費や固定費を削減できる反面、委託費用がかかります。
人件費
開業当初からスタッフを雇用する場合は、給与や社会保険料、採用コストを見込んでおく必要があります。
また、業務が増加すると人員補充が必要になるため、人件費は安定的に準備できるようにしておきたい項目です。
開業後の運営資金
家賃や光熱費、通信費など、毎月必ず発生する固定費に加えて、不動産ポータルサイトへの掲載料なども考慮する必要があります。
売上が安定するまでの半年~1年分程度の運転資金があると安心です。
広告宣伝費
チラシやインターネット広告、ポータルサイトへの掲載費、SNSプロモーションなど、知名度向上のために欠かせないコストです。特に開業初期は集客活動が重要となるため、ある程度の広告宣伝費を確保しておくことが大切です。
人件費
こちらは繰り返しになりますが、スタッフの雇用や教育にかかるコストです。残業代や賞与などの予測も立て、余裕を持った資金計画を立てることが求められます。
開業資金が不足している場合
不動産仲介業の開業資金が不足している場合には、以下のような対応が考えられます。
- 金融機関からの融資:日本政策金融公庫など公的機関の融資や、銀行・信用金庫からの融資などを利用する
- 投資家やベンチャーキャピタルから出資を募る:事業計画をしっかり作り込み、投資家に魅力をアピールする
- クラウドファンディング:試験的な方法だが、事業アイデアやコンセプトに支持が得られれば資金を集められる
- フランチャイズ加盟:保証協会の補助や開業支援プログラムをフランチャイズ本部が提供してくれる場合がある
開業資金を把握したうえで不動産業の開業準備を進めよう
不動産仲介業の開業には、法人設立費用や宅地建物取引業免許の申請費、営業保証金(または保証協会の入会金)、事務所の設置費用など多額の資金が必要です。さらに開業後には人件費や広告費、運転資金が欠かせません。事前に入念な資金計画を立て、必要に応じて金融機関やフランチャイズ本部などのサポートを活用するとスムーズに開業できるでしょう。不動産仲介をこれから始める方は、本記事を参考にしながら、自分に合った開業方法を検討してみてください。