空き家所有者の相続登記義務化について

近年、不動産が抱える問題として空き家の増加があります。
そして、その空き家の中には不動産登記がされていないものも少なくありません。
それを防ぐため、空き家所有者の相続登記義務化が始まります。
今回は、その詳細について解説します。

空き家の相続登記義務化とは?

不動産の所有者が死亡した際は、相続人がその不動産を受け継ぐことになります。
しかし、そのためには相続登記という手続きを行って名義変更をしなくてはいけません。
その手続きを行うことで、所有者が変更されるのです。

購入した不動産の場合、その所有権を主張するには不動産登記をしなくてはならないことが、民法で定められています。
しかし、相続で譲り受けた不動産については、相続登記をする義務がなく、相続登記の期限も決められていませんでした。
相続登記をしない場合の罰則もなかったため、手続きが面倒、登記に必要な費用をかけたくない等の理由から、相続しても登記をしない人は少なくなかったのです。

しかし、その状況が変わることになりました。
2021年4月21日に「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立したため、2024年4月からは相続登記が義務化されることとなったのです。

義務化されることになったのには、登録しないことで、不動産の所有者が不明になってしまうという事情があります。

登記されていない土地があると、例えば国や自治体がその周囲を含めた土地を活用したいと思った時、買取交渉をする相手が不明なので交渉もできません。

例えば、2018年に発生した西日本豪雨では、広島県など中部地方を中心に、河川の氾濫や洪水、土砂災害が発生しました。
全壊・半壊・破損などの被害を受ける住宅が数多く発生し、その中には空き家もあったのです。
その後、被災した住宅を解体するなどして復興を進めたくても、所有者が既に死亡し、相続した人が分からないために進められない、という問題が起きています。

このように、不動産の相続人が不明のままであると、国や自治体の開発・復興計画が遅延したり、最悪の場合には頓挫してしまうケースも考えられます。
また、その土地にある空き家が災害などで倒壊した場合、周囲の土地に住む人にも被害が及ぶかもしれません。
仮にそうなっても、所有者不明の状態では損害賠償を請求することができないのです。

土地の以前の名義人を調べることで、相続人を探すことはできるでしょう。
しかし、それが何代も前だった場合には複数の相続人がいる可能性もあります。
そこから代を重ねるごとに相続人が増えていくため、それを全て調べるというのは困難です。

その状態で土地を活用したくても、相続人全員の合意を得なくてはいけません。
しかし、相続人が多ければ多いほど、全員と連絡を取るのは難しくなる可能性が高くなります。
仮に連絡が取れても、全員の合意をすんなり得るのは難しい可能性が高いでしょう。

法改正による変化

法改正によって2024年4月から空き家所有者の相続登記が義務化されることになると、どのような変化が起きるのでしょうか?

大きな変化として最初に挙げられるのは、相続人となった人は必ず相続登記をしなくてはならない、という点です。
相続が開始された日か、所有権を取得したと知った日から3年以内に名義変更をしなければなりません。

これを正当な理由なく行わなかった場合は、10万円以下の過料の対象になります。
また、その財産を遺言の内容に従って譲り受けた場合も同様です。
ただし、問題となるのは遺産分割がスムーズにまとまらなかった場合で、できるだけ早く相続登記をしたくても、なかなかできません。

そのような時は、相続人であると申告することで、相続登記の義務を免れることが可能です。
不動産の登記名義人の相続が開始されたことと、自身が登記名義人の相続人であると法務局に申告します。
これを受け、法務局が相続人申告登記として申請者の住所氏名を記録しておくのです。
なお、この場合は相続による所有権移転登記ではなく、あくまでも登記名義人の相続開始と登記名義人の相続人であることの報告的な登記になる、という点に注意しましょう。
申告後に協議を経て所有権を取得した場合は、その日から3年以内に登記する義務が生じます。

さらに、この義務は法改正以降から適用されるのではなく、法改正以前の相続登記がされていない不動産に対しても適用されることに注意が必要です。
知った日か改正法執行日のいずれか遅い日から3年以内に登録する義務が生じます。
まだ相続登記が行われていない不動産がある場合、制度のスタートまで時間があるので、早めに遺産分割を明確にしておきましょう。

また、個人及び会社等の法人が、不動産の名義人としての名称や氏名、住所などを変更した場合の変更登記も2026年4月までに義務化される予定です。
これにより、変更登記は、変更があった日から2年以内に手続きをしなくてはならず、それを怠った場合は、5万円以下の過料の対象となってしまいます。

変更登記が義務化されることになったのも、不動産の所有者不明問題が原因です。
すでに書いたように、登記が更新されていないために、現在の居所が不明で連絡がとれず、公共事業や災害復興の妨げになっていることが問題視されたため、これを解消すべく変更登記も義務化することになったのです。
変更登記の義務化は、法改正以前の変更未登録にも適用されます。

また、法務局が住民基本台帳ネットワークなどのシステムからその変更情報を把握することができた場合は、法務局が変更登記をするという判断を下すことも認められます。
ただし、個人の場合は本人の申し出と意向確認が必要とされています。

なお、今回の相続登記義務化に伴い、個人が不動産を新たに取得する場合は、名義変更登記をする際に、生年月日などの情報提供が必要になります。
ただし、これらの情報は登記簿には記載されず、法務局内部での検索用データとして使われます。
海外居住者が不動産を取得する場合には国内の連絡先を申告する必要があり、その連絡先が登記簿に記録されます。
法人が不動産を新たに取得した場合には、会社法人等番号が登記簿に記載されます。

今回の法改正ではこのほかに、遺産分割協議の特別受益や寄与分の期限の新設、土地所有権放棄や行方不明の共有者がいる場合の対応などの改正点があります。
これらを踏まえて、不動産の相続時や新規取得時の手続きを忘れないようにしてください。

まとめ

空き家所有者の相続登記が義務化されることになりますが、これは過去の分も遡って適用されます。
そのため、先祖の土地を放置している場合などは、あらかじめ登記を確認しておいた方がいいでしょう。
長期間放置されていると、その権利関係はかなり複雑になっています。
手続きを簡略化するためにも、可能な限りまとめておくことをおすすめします。

TOP
TOP