
「不動産業界は離職率が高い」という言葉をよく耳にします。
しかし、実際のデータを確認すると、その印象と実態には想像以上のギャップがあるのも確かです。
本記事では、厚生労働省の最新データをもとに不動産業の離職率の実態を明らかにしたうえで、離職率が高いといわれる原因と、企業が取り組むべき改善策を解説します。
不動産会社の採用担当者・経営者の方だけでなく、不動産業界への転職を検討している方にも役立つ内容です。
不動産業の離職率の実態|最新データと他業種との比較

令和6年の不動産業・物品賃貸業の離職率は13.5%
厚生労働省が発表した「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、不動産業・物品賃貸業の離職率は13.5%でした。
同年の全産業平均離職率は14.2%であり、不動産業の離職率は全産業平均をわずかに下回る水準です。
「不動産業界は離職率が高い」というイメージを持つ方は少なくありませんが、データが示す実態は異なるものです。
年度別推移で見る不動産業の離職率の変化
不動産業界の離職率は、年度によって多少の変動があります。
直近5年間の推移を確認すると、全産業平均と比べて概ね同等か下回る水準で推移しています。
| 年度 | 不動産業界の離職率 | 全産業平均 |
|---|---|---|
| 令和2年(2020年) | 11.4% | 13.9% |
| 令和3年(2021年) | 11.9% | 13.9% |
| 令和4年(2022年) | 13.8% | 15.0% |
| 令和5年(2023年) | 16.3% | 15.4% |
| 令和6年(2024年) | 13.5% | 14.2% |
令和5年(2023年)には16.3%と全産業平均を上回る場面がありましたが、令和6年(2024年)は13.5%に改善しています。
働き方改革の推進や残業規制の強化が、離職率低下を後押しした要因と考えられているところです。
他業種と比較した不動産業の離職率の位置づけ
同じ令和6年雇用動向調査で他業種と比較すると、不動産業の離職率は全体の中間に位置します。
| 業種 | 離職率(令和6年) |
|---|---|
| 宿泊業・飲食サービス業 | 一般18.1% / パート29.9% |
| 生活関連サービス業・娯楽業 | 19.0% |
| 医療・福祉 | 15.1% |
| 卸売業・小売業 | 14.7% |
| 不動産業・物品賃貸業(全産業平均14.2%) | 13.5% |
| 製造業 | 10.0% |
| 金融業・保険業 | 8.0% |
宿泊業・飲食サービス業(厚生労働省調査では一般労働者18.1%・パートタイム29.9%)と比較すると、不動産業の13.5%は特別に高い水準とはいえません。
ただし、業界内でも会社によって離職率には大きな差があるのが実態です。
不動産業の離職率が高いといわれる5つの理由

データでは平均的な水準にある不動産業の離職率ですが、「高い」とのイメージが定着している背景には業界特有の課題があります。
離職率が高くなりやすい主な理由を5つ挙げます。
長時間労働・激務のイメージが定着している
不動産営業職は、顧客対応・物件案内・契約書類の作成・新規顧客開拓など、業務の幅が非常に広い職種です。
就業時間内にすべての業務を完了させるのが難しく、残業や休日出勤が慢性化してしまう会社もあります。
特に、顧客の予定に合わせて夕方以降や土日に対応が発生しやすい点が、「激務」というイメージにつながっています。
その分、心身の疲労が積み重なり、体調の限界を感じて離職を検討するケースも少なくありません。
業務効率化やITツールの導入に取り組む企業が増えており、「不動産業=長時間労働」という構図は徐々に変化してきました。
営業ノルマのプレッシャーが精神的負担になる
不動産業界では、契約件数や売上金額を基準にした「成果主義」の文化が根強く残っています。
個人ノルマが設定されている会社では、達成できない場合の精神的なプレッシャーが離職の引き金となるケースも少なくありません。
「売上の悪い社員を吊るし上げるような社風がある」「ノルマ未達で詰められる」といった職場では、精神的なストレスが蓄積しやすい傾向があります。
ただし、チームで目標を達成するスタイルへ移行する企業も増えており、個人に過度な負担を強いる働き方は減少傾向にあります。
土日出勤が多く休日を取りにくい
不動産会社では、顧客が休日に来店・内覧することが多いため、土日に出勤することが一般的です。
「水曜+平日1日」といった形で代休を取る会社が多いですが、繁忙期は連休を取りにくい状況が生まれやすくなります。
前職が土日休みだった方や、家族と週末に時間を共有したい方にとっては、大きな不満の原因になります。
ワークライフバランスを重視する世代が増えている現在、休日の取りやすさは採用・定着の両面で重要な要素です。
固定給が低く収入が不安定になりやすい
不動産業界では、固定給を低めに抑えて歩合(インセンティブ)で報酬を積み上げる給与体系を採用している会社が多くあります。
成約件数が多い時期は高収入を得られますが、成約が伸び悩む時期には手取りが大幅に減少するリスクがあります。
特に、入社間もない時期や未経験者にとっては収入の見通しが立てにくく、生活への不安が精神的な負担となりやすい環境です。
「思ったより稼げなかった」というギャップが、早期離職の一因になっています。
IT化の遅れによる業務効率の低さ
不動産業界では、紙ベースの書類管理や電話・FAXによる顧客対応が今も残る会社が見受けられるのが実情です。
他業種では当たり前となったクラウド管理・電子契約・自動応答システムの導入が遅れていると、作業の煩雑さが離職意欲を高める要因になります。
電子契約が法改正で解禁されたことや、賃貸・売買の業務効率化ツールの普及が進んでいることもあり、デジタル化を積極的に進める企業と旧来の体制が混在している状況です。
CRMや電子契約システムを先行導入した不動産会社では、契約事務の時間短縮により営業担当者が顧客対応や提案活動に集中できる環境が整っています。
関連記事:不動産業の市場動向と課題とは?空き家・人材不足・DXと成長領域を解説
離職を放置し続けると不動産会社が被る3つのリスク

「多少の離職は仕方がない」と放置してしまうと、会社経営に深刻な影響が出ることがあります。
離職が続くことで生じる主な3つのリスクを確認しましょう。
人手不足が連鎖する「離職スパイラル」
1人が離職すると、残った社員に業務が集中します。
過重な業務を抱えた社員が疲弊し、次の離職者を生む温床となりかねません。
さらなる人手不足が発生し、採用を急いだ結果としてミスマッチ採用が増えるという悪循環に陥ります。
この「離職スパイラル」に一度入ると、採用と離職を繰り返す状態から抜け出すのは容易ではありません。
採用・教育コストが増大して経営を圧迫する
離職者が出るたびに、求人広告費・採用工数・入社後の教育費用が新たに発生するのです。
不動産業界では法律・税務・接客など幅広い専門知識の習得に時間がかかるため、1人を戦力化するまでの投資額が大きい傾向があります。
育成途中の社員が離職した場合、その投資はほぼ回収できません。
定着率の向上は、採用コストの削減と表裏一体の経営課題です。
企業イメージ悪化で採用難がさらに深刻になる
離職率が高い状況が続くと、口コミサイトやSNSを通じて「辞める人が多い会社」という評判が広まりやすくなります。
求職者は応募前に企業の評判を調べる傾向が強いため、ネガティブな情報が拡散されると応募数の減少に直結します。
不動産業界はただでさえ人材確保が難しい市場です。
企業イメージの悪化は採用難をさらに加速させ、優秀な人材ほど他社に流れる悪循環を招きかねません。
不動産業の離職率を改善するための6つの対策

定着率を改善するためには、職場環境・制度・採用の各面から多角的に取り組む必要があります。
ここでは、効果的な対策を6つ紹介します。
労働環境の見直しと業務の分散
離職を招く要因としてもっとも多いのが過重労働です。
営業担当がすべての業務を一手に担う体制では、特定の人物に負荷が集中します。
業務の棚卸しを行い、バックオフィスや事務スタッフと役割を分担することで、一人ひとりの負担を軽減できます。
月間労働時間の上限設定やフレックスタイム制の導入も、働き方の改善に有効です。
評価制度・給与体系の再設計
業績だけに偏った評価制度では、真面目に取り組んでも報われないという不公平感が生まれやすいのが実情です。
成果に加えて、プロセス・チームへの貢献度・顧客満足度も評価軸に組み込むことで、幅広い人材が活躍しやすくなります。
給与面においては、固定給とインセンティブのバランスを見直し、経験や習熟度に応じた段階的な給与設計を整えることで定着率の向上につながるでしょう。
「入社直後から高い数字を求められる」という環境を改めることで、長期雇用の土台を作れます。
ITツールの導入で業務を効率化する
業務効率を大幅に改善する手段として、ITツールの活用が欠かせません。
顧客情報を一元管理するCRM(顧客管理システム)の導入や、電子契約システムの活用により、事務作業の負担を大幅に軽減できます。
チャットボットによる問い合わせ対応の自動化や、AI活用によるマッチング業務の効率化も、社員が本質的な営業活動に集中できる環境を生み出します。
デジタル化は採用面でも「働きやすい会社」としてのアピールになる点で効果的です。
エンゲージメント施策で従業員の満足度を高める
職場への帰属意識や働きがいを高めるには、日常的なコミュニケーションの質を改善することが欠かせません。
上司からの承認や感謝を伝える仕組みを整えることで、社員のモチベーションを持続させるうえで有効な手段です。
月次サーベイや1on1ミーティング、サンクスカード制度などを取り入れることで、社員が孤立感や不安を抱えにくい点も見逃せません。
心理的安全性の高い職場では、社員が問題を早期に相談できるため、離職の予兆を早めに察知しやすいのです。
たとえばイエステーションの加盟店では、月次のエンゲージメントサーベイと上司による1on1ミーティングを組み合わせた施策が導入されています。
この取り組みにより社員の不満を早期にキャッチでき、入社1〜2年目社員の定着率向上につながった事例が報告されています。
採用段階のミスマッチを防ぐ「理念採用」の視点
離職の原因として見落とされがちなのが、入社前後のギャップによるミスマッチです。
スキルや経験だけを重視した採用では、社風や価値観の不一致から早期離職につながるケースが多くあります。
理念採用とは、企業の経営方針・ビジョンに共感できる人材を採用する考え方です。
採用広報や面接を通じて自社の理念を丁寧に伝え、応募者との相互理解を深めることが長期定着の基盤になります。
「どんな人と働きたいか」を明確にした採用活動こそが、採用の質を根本から高めるのです。
具体的には、採用ページへの経営者メッセージや社員インタビューの掲載が実践しやすい方法として挙げられます。
面接で「5年後のキャリアイメージ」や「仕事を通じて解決したい課題」を丁寧にすり合わせることも、理念採用の核となる手法です。
スキルや知識は入社後に習得できますが、仕事への価値観や姿勢は容易には変わりません。
入社後の定着を左右するフォローアップ研修
働く環境の整備と並行して取り組むべきが、入社後の研修制度の充実です。
不動産業の実務には専門知識が幅広く必要なため、入社直後のサポート体制が定着率を大きく左右します。
一度きりの座学研修ではなく、実務に即したOJTやフォローアップ研修を段階的に用意することが効果的です。
社員が「着実に成長できている」と実感できる環境を整えることで、日々の仕事へのやりがいが生まれます。
入社半年・1年・3年といった節目でのキャリア面談を定期的に実施することも、社員が自分の成長を振り返り、将来のキャリアパスを会社とともに描ける機会として有効です。
フランチャイズ加盟の場合は、本部のノウハウや研修プログラムを活用でき、自社単独では難しい体系的な育成の仕組みを短期間で構築できます。
関連記事:不動産フランチャイズは未経験でもできる?メリットや向いている人も紹介
離職率が低い不動産会社を見極めるポイント(求職者の方へ)

求人募集の背景を確認する
求人情報を見る際は、「なぜ採用しているのか」という背景を把握しましょう。
事業拡大による増員なのか、欠員補充なのか、常時採用が続いているのかによって、会社の実態が異なります。
面接で「現在の採用状況」や「前任者が異動・退職した理由」を確認することで、職場の実態が見えてくるでしょう。
「年収○○万円!」「20代で管理職!」という誇張表現が目立つ求人は、慢性的な人手不足が背景にある可能性があります。
働き方改革への取り組みをチェックする
時代の変化に対応している企業かどうかを確認することもポイントです。
残業時間の削減・有給取得率の向上・フレックス勤務の導入など、具体的な取り組み内容を採用ページや面接で確認しましょう。
SNS(Instagram・YouTube・X)で情報発信している企業は、社内の透明性が高い傾向があります。
経営者の考え方や社内文化がSNS上で見えることで、自分に合う職場かどうかを事前に判断しやすくなるのです。
社員の口コミ・評判を複数サイトで確認する
採用ページや会社案内では良い面が強調される傾向があります。
転職サイトや口コミサイトのレビュー、OB・OG訪問など、複数の情報源を組み合わせることで、職場の実態をより正確に把握できます。
勤務時間・評価制度への納得感・給与・休日の満足度などが共通して高い評価を受けている企業は、働きやすい環境が整っている可能性が高いです。
まとめ

不動産業の離職率は、厚生労働省の令和6年(2024年)のデータでは13.5%であり、全産業平均の14.2%を下回る水準です。
「離職率が高い業界」というイメージは、過去の労働環境や偏ったメディア報道の影響に依存している面が大きいといえます。
一方で、営業ノルマのプレッシャーや不規則な休日、固定給の低さといった課題が残る会社では、離職率が高くなりやすい傾向も否定できません。
採用担当者・経営者の方は、労働環境の見直し・給与体系の改善・ITツールの導入・理念採用の実践といった対策を複合的に進めることが、定着率の改善につながります。
「採用してもすぐ辞めてしまう」「せっかく育てた優秀な人材が組織に定着しない」といった課題を抱える不動産会社も少なくありません。
不動産フランチャイズへの加盟という選択肢も、経営改善の手段として検討に値します。
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