
経営者の高齢化や後継者不足が深刻化する不動産業界で、事業承継は喫緊の課題です。
M&Aという言葉を耳にする機会も増えたのではないでしょうか?
事業をどう引き継ぐか、あるいは廃業すべきか、悩んでいる経営者の方も多いはずです。
本記事では、不動産業界で事業承継が注目される背景から具体的な承継方法、M&Aが増加している理由を掘り下げます。
ぜひご自身の状況と照らし合わせ、将来の選択肢を考える参考にしてください。
なぜ今不動産業界で事業承継が注目されるのか
不動産業界では、いま事業承継が大きな注目を集めています。
社会的な背景や業界特有の事情が複雑に絡み合い、多くの経営者が岐路に立たされているためです。
こうした現状を理解することは、将来の経営判断に欠かせません。
ここでは、事業承継が注目される4つの理由を解説します。
- 経営者の高齢化と深刻な後継者不足
- 親族内承継の減少と第三者承継の増加
- 黒字でも廃業を選ぶ不動産会社の現状
- 業界特有の課題とM&A市場の活発化
それぞれ見ていきましょう。
経営者の高齢化と深刻な後継者不足
不動産業界では、経営者の高齢化が他業種と比べても顕著な問題となっています。
国土交通省のデータでも、60代以上の社長が半数以上を占めるという実態が示されています。
この高齢化に伴い、深刻化しているのが後継者不足です。
データによれば、不動産業者の約69%が後継者不在で悩んでいるとされています。
子どもがいない、あるいは子どもに継ぐ意思がないといった理由があげられます。
結果として、長年培ってきたノウハウや地域との信頼関係がありながらも、事業の継続が困難になるケースが増加している状況です。
参考資料:国土交通省「不動産業ビジョン2030 参考資料集」
親族内承継の減少と第三者承継の増加
かつての日本では、事業承継といえば親族が後を継ぐ「親族内承継」が一般的でした。
しかし、価値観の多様化や職業選択の自由が広がり、この流れは大きく変化しています。
親族内承継の割合は年々低下しており、家業を継がない選択が珍しくなくなりました。
その受け皿として増加しているのが、M&Aによる第三者承継や、社内の役員・従業員が引き継ぐ内部昇格です。
国や支援機関も、M&Aマッチングなどを後押ししています。
この「脱ファミリー化」の流れが、後継者不在問題の解決策として注目されているためです。
参考資料:中小企業庁「事業承継を知る」
黒字でも廃業を選ぶ不動産会社の現状
事業承継の問題でもっとも深刻なのは、業績が好調な「黒字企業」までもが廃業を選択している現実です。
東京商工リサーチの調査では、休廃業・解散した企業のうち、約6割の企業が直前期決算で黒字だったと報告されています。
経営者自身が高齢化し、後継者が見つからない場合、体力的な限界や将来への不安から、事業が順調でも会社を畳む決断をします。
これは、地域社会にとって大きな損失です。
優良な不動産会社が持つ顧客リストやノウハウが失われることは、買い手にとっても機会の損失といえます。
参考資料:中小企業庁「事業承継を知る」
業界特有の課題とM&A市場の活発化
不動産業界は、法改正への対応やIT技術の活用など、多くの課題に直面しています。
とくに小規模な会社では、オンライン化への対応が遅れ、大手との競争力維持が難しくなっている側面があります。
こうした業界特有の課題も、M&A市場の活発化を後押ししているのが現状です。
売り手にとっては、単独での事業継続が難しいという課題をM&Aで解決できます。
買い手にとっては、事業エリアの拡大やIT技術と既存の顧客基盤を組み合わせることで、
新たな価値を生み出す好機となります。
これらの需要と供給が一致し、M&Aの件数は増加傾向にあるのが現状です。
不動産の事業承継で引き継ぐ3つの要素
事業承継とは、単に会社の名前を引き継ぐことではありません。
会社を構成するさまざまな要素を、後継者へ包括的に移転させるものです。
これらが正しく引き継がれて初めて、事業は円滑に継続できます。
ここでは、事業承継で引き継ぐ主要な3つの要素を紹介します。
- 会社の経営権
- 人材やノウハウなどの経営資源
- 不動産や設備・株式などの資産
詳しく見ていきましょう。
会社の経営権
会社の経営権の承継は、事業承継の核となる部分です。
これは、会社を経営する権利、すなわち意思決定権を引き継ぐことを意味します。
株式会社の場合、経営権は「株式」に紐づいており、後継者が会社の株式を取得することで、経営権が法的に移転します。
たとえば、株式譲渡というM&Aの手法では、買い手が売り手から株式を買い取ることで経営権を取得。
この株式の移転を誰に、いつどのくらいの割合で行うかが、事業承継の計画において大切なポイントです。
人材やノウハウなどの経営資源
事業承継では、目に見えない価値である「経営資源」の引き継ぎも不可欠です。
これには、長年勤務している従業員や、彼らが持つ専門知識や業務ノウハウが含まれます。
不動産業においては、地域の物件オーナーや顧客との信頼関係、いわゆる「人脈」も重要な経営資源です。
これらは貸借対照表には載らない無形の資産であり、会社の本当の競争力の源泉といえます。
従業員の雇用をいかに維持し、これらの無形資産をスムーズに後継者へ移転できるかが、承継後の業績を左右します。
不動産や設備・株式などの資産
会社が保有する「資産」の承継も、事業承継の重要な要素です。
これには、事業所として使用している土地や建物といった不動産、社用車やオフィス機器などの設備が含まれます。
会社の運転資金である現金や預貯金、あるいは他社の株式なども対象です。
これらの有形資産は、会社の財産的価値を形成しています。
不動産業の場合、自社で所有する不動産の評価額が大きくなることも多いため、資産の承継は後述する税金問題にも直結します。
不動産会社の事業承継3つの方法
不動産会社の事業承継は、誰に事業を引き継ぐかによって、以下3つの方法に分類されます。
- 親族に引き継ぐ親族内承継
- 従業員に引き継ぐ社内承継
- M&Aによる第三者への承継
どの方法を選ぶかによって、準備の進め方や期間が大きく異なります。
親族に引き継ぐ親族内承継
親族内承継は、経営者の子どもや配偶者、その他の親族に事業を引き継ぐ、もっとも伝統的な方法です。
メリットは、従業員や取引先から後継者として受け入れられやすい点や、早期に後継者を決定できれば、十分な育成期間を確保できる点です。
しかし、親族内に適任者がいない、あるいは継ぐ意思がないケースが増加しています。
複数の相続人がいる場合、株式や不動産などの資産が分散し、経営権が不安定になったり、相続トラブルに発展したりするリスクも抱えています。
従業員に引き継ぐ社内承継
社内承継は、親族以外の役員や優秀な従業員に事業を引き継ぐ方法です。
後継者候補が長年会社に勤務しているため、事業内容や企業文化を深く理解している点が最大のメリットです。
従業員や取引先からの理解も得られやすく、承継後の経営もスムーズに進むことが期待されます。
一方で、後継者となる従業員に、株式を買い取るための十分な資金力がない場合が多いという課題があります。
営業担当者としては優秀でも経営者としての資質があるとは限らないため、その見極めと育成が肝心です。
M&Aによる第三者への承継
M&Aによる第三者承継は、親族や社内に適任者がいない場合に、外部の企業や個人に会社や事業を売却する方法です。
最大のメリットは、後継者不在の問題を解決できる点です。
また、オーナー経営者は、株式の売却によってまとまった資金(創業者利益)を得られます。
買い手企業のネットワークや資金力を活用し、事業がさらに発展する可能性もあります。
ただし、希望条件に合う買い手を見つけるのが難しい場合や、M&A実行後に混乱が生じる可能性も考慮しなければいけません。
不動産会社のM&Aが増加している理由とメリット
不動産会社の間でM&Aが増加している背景には、売り手と買い手双方に大きなメリットがあるためです。
売り手である中小の不動産会社にとっては、後継者不在の問題を解決し、廃業を避けられることが最大の理由です。
創業者利益の確保や、従業員の雇用を維持できる点も魅力といえます。
一方、買い手にとっては、事業規模の拡大を短期間で実現できるメリットがあります。
新規に立ち上げるよりも、既存の顧客基盤や地域の人脈、優秀な人材を一括で獲得できるため、効率的です。
こうした双方のニーズが合致し、業界再編の動きが活発になっています。
不動産事業承継で活用したい税金対策
不動産事業承継では、株式や不動産といった高額な資産が移転するため、税金対策が必須です。
とくに相続税や贈与税の負担が重く、納税資金が準備できずに承継が難航するケースも少なくありません。
ここでは、事業承継時に活用を検討したい代表的な2つの税金対策を紹介します。
- 非上場株式等に係る事業承継税制の概要
- 小規模宅地等の特例
これらの制度を正しく理解し、専門家と相談しながら計画的に進めることが大切です。
非上場株式等に係る事業承継税制の概要
事業承継税制は、中小企業の円滑な事業承継を支援するための制度です。
後継者が非上場株式を相続または贈与によって取得した際、一定の要件を満たすことで、相続税や贈与税の納税が猶予され、最終的に免除される可能性があります。
この制度について、以下3つを掘り下げていきます。
- 不動産賃貸業で適用を受けるための要件
- 事業承継税制のメリット
- 事業承継税制のデメリット
強力な制度ですが、適用要件が複雑なため注意が必要です。
不動産賃貸業で適用を受けるための要件
不動産賃貸業は、その事業の性質上「資産管理会社」とみなされることが多く、原則として事業承継税制の適用対象外となります。
しかし、例外として3つの事業実態要件をすべて満たせば適用が可能です。
- 3年以上業務を継続して行っていること
- 事務所を所有または賃借していること
- 従業員を常時5名以上雇用していること
とくに従業員5人以上の要件は、小規模な会社にとってハードルとなる場合があります。
事業承継税制のメリット
この制度の最大のメリットは、後継者の税負担を大幅に軽減できる点です。
通常であれば高額になる非上場株式にかかる贈与税や相続税の納税が猶予されます。
これにより、後継者は納税資金の準備に悩むことなく、承継後の経営に集中できるでしょう。
さらに、後継者が亡くなるなど一定の要件を満たした場合、猶予されていた税額が最終的に全額免除されます。
これは、事業の継続を強力に後押しするものです。
事業承継税制のデメリット
デメリットとして、まず適用を受けるための手続きが複雑であることがあげられます。
また、納税猶予が開始されたあとも、継続的に要件を満し続けなければなりません。
たとえば、後継者が代表者を退任したり、雇用の維持ができなくなったりすると、猶予が打ち切られる場合があります。
その際は、猶予されていた税額と利子税を一括で納付する必要があり、かえって資金繰りを圧迫するリスクも存在します。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、事業承継を含む相続の際に活用できる節税対策の1つです。
この制度は、亡くなった方(被相続人)が事業用や居住用として使っていた土地を相続した際、その土地の相続税評価額を大幅に減額できるものです。
この特例について、不動産業に関連する2つの区分を見ていきます。
- 特定事業用宅地等(貸付事業以外の事業用)
- 貸付事業用宅地等(不動産貸付業など)
事業承継税制との選択適用になる場合もあるため、どちらが有利か検討が必要です。
参考資料:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
特定事業用宅地等(貸付事業以外の事業用)
特定事業用宅地等とは、不動産貸付業以外の事業、たとえば不動産売買仲介業などの事務所として使われていた土地が該当します。
この特例の適用を受けると、400平方メートルまでの部分について、土地の評価額が80%減額されます。
土地の評価額が1億円であれば、2,000万円として相続税を計算できるため、大きな節税効果につながるでしょう。
後継者が事業を継続することが適用の要件となります。
貸付事業用宅地等(不動産貸付業など)
貸付事業用宅地等とは、被相続人がアパートや駐車場など、不動産貸付業の用としていた土地のことです。
この場合、200平方メートルまでの部分について、土地の評価額が50%減額されます。
特定事業用宅地等と比べると減額割合は低いですが、それでも相続税の負担を大きく減らせます。
なお、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地は、原則として対象外となるため注意が必要です。
まとめ:不動産事業承継を成功に導くために
不動産事業承継は、会社を存続させるための重要な第一歩です。
しかし、承継後に「売上をどう伸ばすか」「社員教育に手が回らない」といった新たな課題に直面することも少なくありません。
イエステーションでは、事業承継後に業務拡大を目指して加盟されたオーナー様も活躍されています。
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